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Special Symposium

ワイドギャップ半導体 あけぼのから最前線へ〜出版記念シンポジウム〜開催報告

                   (報告者:幹事(特別事業担当) 京都大学 須田 淳)

 日本学術振興会 産業協力研究委員会 特別事業 「知識や技術の伝承取りまとめ」として本委員会(学振第162委員会)がすすめた出版事業が完了し、書籍「ワイドギャップ半導体 あけぼのから最前線へ」が2013年1月に培風館から出版された。この出版を記念して、2013年7月16日に東京ガーデンパレスホテルにて出版記念シンポジウムならびに祝賀会、意見交換会を開催した。シンポジウムには約230名の参加があり、また、意見交換会にも90名近い参加があり、大変盛況であった。

 シンポジウムの開会にあたり、学振162委員会を代表して千葉大学の吉川明彦委員長より、出版事業の趣旨、出版に至るまでの経緯、完成した書籍の概要について説明が行われた。「世界を代表するワイドギャップ半導体の開拓者である、窒化物半導体の赤ア勇先生、炭化珪素半導体の松波弘之先生の原稿には、輝かしい業績に至るまでの経緯と、現在のワイドギャップ半導体の基礎技術となっている研究成果について、分かりやすく詳細に書かれているが、何より、両先生のパイオニアとしての意気込み、情熱、強い意志がひしひしと伝わってくる内容となっており、技術の伝承に誠にふさわしい内容で執筆いただいた」と感謝の言葉が述べられた。また、書籍の後半は、ワイドギャップ半導体の各分野で活躍する第一線の研究者による最先端の研究開発の現状の解説がなされており、研究開発で忙しい中、執筆を頂いた著者の方々へのお礼が述べられた。「将来、新規研究分野を開拓することになる学生、若手研究者にこの本を読んでいただき、研究者の強い意欲と熱い気持ちの持続が大切であることを是非感じ取って欲しい」という編集委員長としての思いが述べられた。

 シンポジウムの最初の講演として、東京大学名誉教授、豊田工業大学学長の榊 裕之先生より「半導体工学の発展の経緯と未来 −素子構造と組成の最適化を軸に−」と題した記念講演を頂戴した。ゲルマニウムから始まった半導体材料や半導体素子構造の進歩を、具体例を挙げながら分かりやすく紹介するとともに、榊先生のご業績である、半導体低次元構造への展開について、その特徴や工学応用上の利点について解説された。低次元構造とは別の方向性としての新材料、つまり、ワイドギャップ半導体材料の開拓に関する、赤ア・松波両先生の功績について紹介され、最後に、榊先生自身が最近取り組まれているワイドギャップ半導体ヘテロ構造に誘起される2次元電子ガスの散乱機構の研究について紹介された。

 引き続き、書籍の後半、すなわち、最先端の研究開発を執筆された著者を代表して、窒化物半導体光物性について京都大学の川上養一教授、炭化珪素半導体パワーデバイスについてローム株式会社のユニット長の中村孝様から講演を頂いた。

 川上教授からは、窒化物半導体InGaN系LEDの高い発光効率のメカニズムについて、さまざまな評価方法から導き出されるキャリア局在モデルについて詳しく解説が行われた。特に、局在現象を直接可視化する近接場光学顕微鏡による観察結果を基に、局在過程を分かりやすく解説された。また、赤ア先生らによる先駆的なInGaN/GaN量子井戸構造における分極の論文に端を発する分極効果について、近年話題になっている無極性面、半極性面上量子井戸構造について最新の研究動向が紹介された。

 中村様からは、松波先生が開拓されたSiCパワーデバイスの基礎技術が、現在、パワーデバイス産業においてどこまで展開し、どのような社会的なインパクトをもたらすことが期待されるかの解説が行われた。ローム株式会社、東京エレクトロン、京都大学の産学連携プロジェクトとしての大面積高均一SiCホモエピタキシャル成長装置の開発や、ローム株式会社がSiC分野で先頭を走っているトレンチ構造型パワーデバイスについて、その利点、実現に至るまでの経緯などについて紹介された。最後に、ローム株式会社で開発を進めている最新のSiCパワーモジュールについて紹介が行われ、パワーエレクトロニクスが数多くの場面で省エネルギー、機器の小型・軽量化に貢献する部品として期待されていることが説明された。

 休憩をはさんで、シンポジウムのメインイベントである、松波先生、赤ア先生の講演が行われた。

 松波先生は学生時代、卒業研究で取り組んだ拡散プロセスによるGeトランジスタの作製の研究の強烈な体験が自分の研究のベースになっているとの話からはじめられた。40年以上前にSiCの優れた材料物性に注目が集まり、世界的に研究が行われたものの、結晶成長の困難さから世界中で研究が中止される中で、どうにかSiCを半導体材料の一員という立場に押し上げたいという強い思いから、困難な中で研究を進めた様子が語られた。当初は、SiCの大型結晶が存在せず、Si基板上のSiCの成長に注力し、さまざまな工夫を得て、品質の良いSiCヘテロエピタキシャル成長を実現、イオン注入、酸化プロセスにより、世界ではじめてSiC反転型MOSFETの試作に成功したが、オフ時のリーク電流が大きく、SiC/Siの大きな格子不整合の限界を悟り、その後、ポリタイプ制御が困難なホモエピタキシャル成長の研究に注力、ステップ制御エピタキシーの開発に成功するまでの経緯が述べられた。高品質エピに成功するも、企業のサポートは得られず、自らSiCの優位性を証明するしかないと考えて、ドーピング、デバイスプロセスの研究を展開し、1996年にSiCで1750V耐圧超低オン抵抗のショットキーダイオードの試作に成功したことが説明された。その後、MOS界面についても(11-20)面の利用による大幅なチャネル移動度の向上なども見出し、これらが、現在のSiCパワーデバイスの基礎となっている。当初夢見た、(かつては研磨剤、耐熱材として見られていた)SiCを半導体材料の一員にという目標が、今日、ロームや三菱電機によるSiCパワーデバイス商品化により現実のものになったことが感慨深く述べられた。

 赤ア先生は、京都大学卒業後、松下電器に入社され、最初はブラウン管の蛍光体の研究に従事された。その時に発光現象に強い興味を持ったことが、研究の原点になっているということから話を始められた。松下電器では、赤色LEDの開発を行い、機器のパイロットランプに広く利用されるなど、LEDで大きな業績を上げられた。当時未踏であった青色LEDの実現を目指して、当時、ほとんど研究されていなかったGaNに着目され研究開発を進められた。MIS型であるが、青色LEDの試作に成功され、展示会で松下のブースに展示されるなど(書籍表紙)の成果をあげたが、赤ア先生はこれはpn接合ではなく本命ではない。本当に実用になるのはpn接合だと心に秘めて研究を進められた。当時、GaNのバルク結晶は存在せず、必然的にヘテロエピタキシャル成長せざるを得ない。さまざまな基板を検討して、サファイアが最も適しているとの結論を得て、サファイア基板上のGaN成長に精力的に取り組まれた。成膜したGaNは白濁した荒れた表面であり、GaAs等の研究者からすると絶望的に見えたが、赤ア先生は、時折、極めて強く発光する箇所があり、何らかの方法でこの箇所を全面に広げることができればGaN LEDが実現できるとの信念を持ち、研究を続行した。緩衝層を導入することで改善を図ったもののなかなかうまくいかなかったが、装置の不具合からたまたま行った低温堆積したAlN緩衝層により、これまでには決して得られなかった鏡面のGaNを得て、その条件、メカニズムを解明することで、サファイア基板上に高品質GaNを成長する手法、低温堆積バッファ層技術を確立したことが説明された。この技術はサファイア基板のみならず、SiCやSi基板上の成長でも用いられるGaNヘテロエピタキシャル成長の基本技術となっている。その後、高品質GaNを用いてn型ドーピング、そして、当時不可能と考えられていたp型ドーピングに成功し、世界ではじめてGaNのpn接合LEDの試作に成功した。この技術が基になり、今日のGaN高輝度LEDがなりたっている。GaN系LED、レーザダイオードの開発や、基礎研究としてはInGaNにおけるピエゾ分極についてはじめて明確にその重要性を指摘した論文、AlInNの研究など非常に広範な分野で窒化物半導体の業績をあげられているが、その一端を講演では紹介していただいた。研究者として強い信念をもって道を進むことの重要性を述べられた。

 シンポジウムには、赤ア先生、松波先生と親交のある、西澤先生、末松先生、志水先生をはじめとする多数の先生が会場にお越しになり、講演者の榊先生、松波先生、赤ア先生をあわせて、まさに、日本を代表する半導体の先駆者、第一人者が一同に会するシンポジウムとなった。また、海外からは、米国レンセラー工科大学のPark先生にもお越し頂いた。非常にすばらしいシンポジウムが開催でき、講演者の先生方はじめ、関係各位に心から感謝申し上げる次第である。

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